
INTRODUCTION
厚生労働省の歯の状況調査平成28年(歯が20本以上残っている人の割合)では、前回の調査(平成23年)に比べて45歳~85歳の方は改善していますが、40歳~45歳の方は横ばい状態でした。同じ厚生労働省の歯の状況調査平成28年では、30代以上の3人に2人が歯周組織に所見がみられます。歯を失う2大原因は、歯周病と虫歯です。虫歯は広く認知されていますが、歯周病は意外と詳しく知られていません。以前は歯槽膿漏といわれていた歯周病ですが、何故病名が変わったのでしょうか?・・・それは歯や歯ぐきなど口の中以外でも、歯周病菌が人の体に悪影響を及ぼすことがわかったからです。今回はあまり知られていない歯周病を解説していきます。
歯周病とは
歯周病は、歯と歯ぐきのすき間「歯周ポケット」に侵入した細菌が、歯ぐきの内部で炎症を起こします。歯肉(歯ぐき)だけに炎症が生じる状態を「歯肉炎」、さらに炎症が歯周組織(歯周ポケット、歯槽骨)におよぶと「歯周炎」になり、これらを合わせて歯周病といいます。
歯周病の進行と症状
口の中には300種類以上の細菌が存在し、歯みがきが充分でないと、口の中の細菌が食べカスを分解し、歯の表面にネバネバした膜(バイオフィルム)状のプラーク(歯垢)を形成します。プラークは細菌の塊で1/1000gの中に1億を超える細菌が棲みついています。またプラークの中の細菌(歯周病原生細菌)は、唾液と結合して、歯石という軽石のような硬い物質を作ります。歯垢(プラーク)や歯石が歯周ポケットに付着し歯周病菌が繁殖します。
軽度歯周病
歯周病菌が産生する毒素によって、歯ぐきが腫れたり、歯の表面を溶かしていき、歯と歯肉の間にすきま(歯周ポケット)が広く深くなります。歯ぐきから血や膿が出ることもあります。
中度歯周病
進行していくと歯周病菌はさらに歯周ポケットの奥深くへと繁殖していき、歯槽骨が溶けて歯がぐらついてきます。
重度歯周病
さらに進行すると歯を支える歯槽骨を溶かし、ついには自然に歯が抜け落ちてしまいます。
歯周病の歯周病菌は嫌気性の細菌です。わかりやすくいいますと、歯周病菌は空気が苦手で、空気(酸素)に触れると死滅します。そのため歯周病菌にとって歯周ポケットの中は空気に触れにくい居心地の良い環境になっているようです。また歯周病の怖いところは、自覚症状をほとんど感じないことです。
歯周病の原因
歯周病の直接的な原因は、歯磨きが充分でないと、歯の周りに着く汚れであるプラーク(歯垢)中の歯周病菌が繁殖、定着し、歯周病菌の繁殖力に体の免疫力が抵抗しきれなかった結果、歯ぐきに炎症を起こします。さらに歯周病菌が直接、間接的に組織を破壊する毒素や酵素をもっていることで歯周病を悪化させます。歯周病を引き起こす歯周病菌の種類は「P.g.菌」、「T.f.菌」、「Td.菌」、「P.i.菌」、「A.a.菌」など10種類以上がわかっています。「P.g.菌」、「T.f.菌」、「Td.菌」は歯周病が進行している人々のほぼ60~70%から発見される菌のようです。このほかにも数十種類もの細菌が歯周病との関連を疑われており、他の感染症のように1種類の細菌が感染して起こるようなものではないようです。
歯周病が関係する体の疾患
これまで、歯周病は歯ぐきの病気として知られていましたが、歯周病菌が唾液や呼吸を介して肺に入り込み、また歯ぐきの中の毛細血管を介して体に入り込み、糖尿病や循環器病、呼吸器疾患などの病状に悪影響を与えたり、反対にそれらの病気が歯周病を悪化させたりすることがわかってきています。
誤嚥性肺炎
誤嚥性(ごえんせい)肺炎とは、食べ物や異物を誤って気管や肺に飲み込んでしまうことで発症する肺炎です。誤嚥性肺炎は高齢者に多く見られます。口から食道へと入っていくはずの飲食物が誤って気管支に入ってしまい、免疫力が低下している高齢者では、肺の中へつばと一緒に入った歯周病菌が増殖し、死に至る場合もあるようです。
歯周病と低体重児・早産
妊婦が歯周病の場合、早産・低体重児出産の危険性が7・5倍以上になるという報告があります。要因として、歯周病が進行し、歯ぐきの炎症が強くなると、歯周組織のプロスタグランジンE2が増加します。このプロスタグランジンE2という物質が血液を介して膣内に作用して、子宮の収縮、子宮頚部の拡張作用を促すため、早産を引き起こすといわれています。なお、プロスタグランジンE2はじん痛促進剤として使用されています。
歯周病と心臓疾患
動脈硬化は、不適切な食生活や運動不足、ストレスなどの生活習慣が要因とされていましたが、別のリスク因子として歯周病菌の細菌感染が、心血管疾患と大きく関連していると明らかにされてきました。仮説として、歯周病菌が誘発する血管内の炎症により、血管内にプラーク(脂肪性沈着物)がたまり、血液の通り道を細くします。プラークが剥がれて血栓が出来ると、血管が詰まったり血管の細いところで詰まるということです。
歯周病と脳血管疾患
頸動脈や心臓から血の塊やプラークが飛んで来て脳血管が詰まる病気です。歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞になり易いといわれています。
歯周病と糖尿病
歯周病は以前から、糖尿病の合併症の一つと言われてきました。最近は歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼしあっていると考えられるようになってきました。歯周病治療で糖尿病も改善することも分かってきています。歯周病菌は腫れた歯肉から血管内に侵入し全身に回ります。血管に入った歯周病菌は通常は体の免疫力で死滅しますが、歯周病菌の死骸の持つ毒素は残り血糖値に悪影響を及ぼします。血液中の毒素は、脂肪組織や肝臓からのサイトカイン(炎症を起こす物質)の産生を増加させます。サイトカインは、血液中の糖分の取り込みを抑える働きもあるため、血糖値を下げるインスリンの働きを妨げてしまいます。歯周病を合併した糖尿病の患者に、抗菌薬を用いた歯周病治療を行ったところ、血液中のサイトカイン濃度が低下するだけではなく、血糖値のコントロール状態を示す数値も改善するという結果が得られているようです。
歯周病は上記以外にも様々な疾患に関係しているといわれています。
歯周病の予防と対策
歯周病予防は一歯ずつ丁寧にみがくことが大切です。歯と歯の間、歯の一番奥の部分、被せ物やブリッジが入っている部分など、歯ブラシだけでは汚れが取りにくい部位があります。そんな場所には歯間ブラシ、部分みがき専用歯ブラシ、デンタルフロス(糸ようじ)使って下さい。歯周病は歯を失う大きな原因であり、さまざまな体の病気とも深い関係があります。
以下の項目をチェックし対処しましょう。
- 朝起きたときに、口の中がネバネバする。
- 歯ぐきに赤く腫れた部分がある。
- 歯みがきのときに出血する
- 歯ぐきがやせてきた。
- 硬いものが噛みにくい。
- 口臭がなんとなく気になる。
- 歯ぐきがブヨブヨしている。
- ときどき歯がういたような感じがする
- 歯と歯の間にすきまにものが詰まりやすい。
- 指で触ってみて、少しぐらつく歯がある。
- 歯ぐきから膿が出たことがある。
チェックがない場合
これからもきちんと歯みがきを心がけ、少なくても6ヶ月に1回は歯科健診を受けましょう。
チェックが1~2個の場合
歯周病の可能性があります。まずは歯みがきの仕方を見直しましょう、念のためかかりつけの歯科医院で、歯周病でないかどうか、歯みがきがきちんとできているか、確認してもらったほうがよいでしょう。
チェックが3~5個以上の場合
初期あるいは中等度歯周炎以上に歯周病が進行しているおそれがあります。早急に歯科医に相談しましょう。
終わりに・・・
歯周病菌は、全身に悪影響を与える慢性的な炎症です。歯周病がある方も、健康な方も、また、すでに既往症がある方も、血管の状態を悪化させ、様々な病気になりやすいことが証明されています。これまでいわれてきた生活習慣(食事、睡眠、運動)に気をつけることを続けた上で、毎日の歯磨き(ブラッシング・うがい)をさらに意識して下さい。歯科検診を6ヶ月に1度は受診し、正しい歯磨きの指導を受けましょう。