喘息は高齢者や子供の病気だと思われがちですが、近年では成人してから発症する患者数が増加傾向にあります。とくに40歳を超えてからの発症が半数以上を占めているそうです。平成26年厚生労働省調査の喘息患者年齢別構成割合比較では、0~19歳が(38%)・20~44歳が(17%)・45~69歳が(26%)・70歳以上が(19%)で全体としては若年層の患者数が多い事がわかります。成人の患者数では45~69歳の患者数が多くなっています。ではなぜ成人してからの喘息が増加しているのでしょうか。体質以外に環境や生活習慣も関係しているようです
目次
喘息とは
喘息の正式な病名は「気管支喘息(きかんしぜんそく)」といいます。病名の通り気管支(気道)に起こる病気です。気道に慢性的な炎症があり、ちょっとした刺激でも気道が過敏に反応して、激しい咳き込みや息苦しさなどの発作が起こります。喘息には日常生活でアレルギーを起こす原因物質がはっきり特定できるアトピー型と、原因物質が特定できない非アトピー型があります。
喘息の症状
喘息の発作で代表的な症状は呼吸困難です。炎症によって気道が狭くなっているために、十分な呼吸ができません。発作は特に夜間や早朝に現れやすいのが特徴です。そのため、咳き込むたびに起き上がり(座っている方が、呼吸が楽になる為)発作が起こっている時は、体力の消耗と睡眠不足に悩まされがちになります。喘息の主な症状は呼吸時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が出る(ぜん鳴)と発作性の激しい咳が出ます。重症になると命の関わることもある病気で、喘息で亡くなる人の約9割が大人です。特に65歳以上の高齢者の割合が高いことが分かっています。なお以前に比べると治療技術の進歩で、全体的な死亡者数は減少傾向にあるようです。風邪が流行している時に咳などの症状が続いていて、風邪の症状なのか喘息の症状なのか判断がつかない場合は、ぜん鳴があり痰を伴う激しい咳が数週間続くようであれば、喘息を疑って専門の医療機関を受診して下さい。
喘息のメカニズムと原因
喘息の人の気管支をはじめとする気道は、健康的な人に比べて※1「Tリンパ球」や「好酸球(白血球の一種)」を中心とした細胞が集まって常にアレルギー性の炎症を起こし、内腔は狭くなって空気が通りにくく、粘膜は刺激に弱い状態になっています。そこへ発作を起こす刺激(原因・※2「危険因子」)が加わると気管支の周りの筋肉が収縮して気道の内腔が狭くなり、痰も増加するためにさらに気道が狭くなり、激しい咳込みやぜん鳴を伴う呼吸困難が起こります。
※1:気管支の断面図を参照、青い小さな点がTリンパ球で、赤い小さな点が好酸球を表しています。これらの免疫細胞は、炎症を起こしている場所に集まる性質があります。
※2:危険因子(きけんいんし)= 喘息の発症・増悪に関わる危険因子としては、個体因子と環境因子が関係しています。
個体因子
1.遺伝的素因
両親に喘息があるときは、子供の発症リスクは約3~5倍ほど高くなるとされていますが、まだ原因遺伝子の確定には至っておらず、現在も研究が行われています。
2.アトピー素因(※3)
環境中のアレルゲンに対して、※4「igE抗体」を作りやすい体質のことをいいます。血液中のigE抗体が高いと、喘息の有用率が増加するといわれています。
※3アレルギー疾患の発症に深く関わっている物質です。
※4「アトピー」とは本来、アレルギー性の病気を起こしやすい体質の人のことを指す言葉です。
3.気道過敏性
気道が様々な刺激に過敏になることは、喘息発症の危険因子になります。
4.性差
子供では女児よりも男児に喘息が多くみられ、成人では女性の有病率が高くなります。
環境因子
①アレルゲン
アレルギーの原因となる物質をアレルゲンと呼びます。どういう物質がアレルゲンになるかは人によって様々ですが、喘息を引き起こすアレルゲンとして最も多いのは、ダニの死骸やフンそれらを含んだホコリ、ハウスダスト、ペットの毛やフケ(特に猫を飼っている人で喘息になっている患者が多いそうです)、カビ、花粉などです。
②呼吸器疾患
風邪やインフルエンザなどです。空気が乾燥しがちな冬は特に注意して下さい。
③メタボリックシンドローム・肥満
非アトピー型喘息の悪化因子であり、発症因子であることがわかっています。内臓脂肪に含まれる脂肪細胞が、炎症を悪化させる物質を分泌すること、肥満によって気道が狭くなることが原因といわれています。
④大気汚染
車の排気ガスなど汚れた空気には、気道を刺激する物質が含まれています。特に春先に多いPM2.5が原因になる場合もあります。
⑤喫煙
たばこの煙には多くの有害物質が含まれており、呼吸機能を低下させます。
⑥気象
喘息の発作は気温や気圧の急激な変化をする時など、気候が不安定な時に起こりやすい傾向があります。
⑦ストレス
原因ははっきりと解明されていませんが、ストレスを感じることで体内の肥満細胞などから炎症物質が出されるため、喘息が悪化すると考えられています。また自律神経の乱れによって、気道を収縮させることがあります。
⑧アルコール
摂取したアルコールは、速やかにアセトアルデヒドに分解されます。アセトアルデヒドは気管支の粘膜をむくませるため、喘息の症状が悪化することがあります。
喘息の予防と対策
従来の治療法は発作を緩和する対処療法が中心でした。しかし近年は気道の炎症を改善し、発作を予防する方向へと転換しています。アレルゲンとなりやすいものを生活環境から除去しましょう。
①ダニ対策
ダニの生息しやすいものを洗う、覆う、拭く、除く、除湿(換気)することが基本になります。
②カビ対策
ダニ対策+湿度を上げないことです。
③感染症対策
外出するときはマスクをする。帰宅したら手洗い、うがいをする。
④喫煙対策
ニコチンガムやニコチンパッチ、禁煙外来の活用で禁煙をする。
⑤メタボリックシンドローム・肥満対策
偏った食事をせずに、和食中心のバランスの良い食生活に改善をする。適度な運動でBMI25未満を目指す。
⑥大気汚染対策
感染症対策と同じです。
⑦気象対策
天気予報をこまめにチェックする。
⑧ストレス対策
趣味やスポーツなど、自分なりのストレス解消法を見つけることも大切です。
⑨アルコール対策
無理な飲酒は控える。飲酒の機会がある場合には医師に相談しましょう。
喘息の発作、悪化を防ぐ対策は、成人喘息発症の予防にもつながります。無理のない対策を立て継続していきましょう。